電子ビーム蒸着（EBガン）の解説

2024年6月18日2024年10月8日

ＥＢガンとは

EBガン（Electron Beam Gun）とは電子ビーム蒸着電子銃の簡易名称です。
E型電子銃とも呼ばれ高真空中で電子銃のタングステンフィラメントを加熱する事によって発生する熱電子を、磁石による磁場の中で加速偏向し、水冷された銅製ルツボ内の蒸発材料に収束された電子線が直接照射され蒸発し基板等の試料に成膜させる真空蒸着技術です。高融点金属や酸化物などの蒸着方法として利用されます。

【　EBガンの構造略図　】

【　実際の電子ビーム蒸着の様子　】

EBガンの優れた特徴

高融点材料の蒸着
電子ビームによる加熱蒸発はパワー密度が大きい為、高融点金属や酸化物の蒸発に優れています。
銅製の水冷ルツボに蒸発材料を充填し電子ビームを直接照射するため基板上の薄膜は抵抗加熱方式のように蒸発物とヒーター材とが反応（合金化等）する心配がありません。

高純度の薄膜
高真空中での成膜と成りますので、平均自由工程が大きく気体原子、分子となった蒸着材料は残留ガス分子などに影響を受けず基板に到達が可能で、薄膜は汚染の影響を受けにくく純度の高い膜質が期待できます。

材料の選択肢の広さ
電子ビーム蒸着はさまざまな材料に適用可能です。金属、酸化物、半導体材料など、幅広い材料を蒸発させることができるため、多用途に対応できます。

EBガンの注意点

材料とビームを受ける部分は銅で出来ており、蒸着中は常に水を循環して冷却を行います。注意しなければならないのは、冷却水がちゃんと流れ続けているかということです。冷却水を流し忘れている場合や、電源喪失などで冷却の循環が切れてしまった場合、ビームを受けた銅るつぼが溶け、冷却水が高真空装置内に侵入してしまうといった事例が考えられます。復旧には相当な費用と時間が必要となります。このため、EBガンの電源装置には、冷却水が循環していることを検知するためのインターロック機構が備わっております。緊急時も、水の流れが止まれば装置も自動停止するような制御設計がなされているはずです。

また、チャンバー内が真空状態である場合のみ、高電圧がかけられるように、真空状態を検知するインターロックも必要です。これはオペレーター保護の観点から設定されるインターロック機能になります。

電子ビーム蒸着とハースライナー

通常、蒸着材料はＥＢガン本体の水冷された銅製ルツボブロック（ルツボ）内に充填しますがルツボブロック自身の汚れを防ぐためにさらにハースライナーという容器に蒸着材料を入れてルツボにセットすることが一般的です。常に同じ蒸着材料ではなく異種の蒸着材料を充填する場合にはハースライナーごと交換することが可能で、不純物の混入を防ぎます。これによりＥＢガンルツボ部のクリ―ニングが簡素化され、さらにはハースライナーを入れることで過冷却防止と蒸着レートの増加の効果があります。
ハースライナーはいろいろな材料での製作が可能ですが、蒸着材料との相性がありますので注意が必要です。

ハースライナーの主な材質と呼称
C　カーボン
W　タングステン
Mo　モリブデン
Al2O3　酸化アルミニウム（アルミナ）
ZrO₂　酸化ジルコニウム（ジルコニア）

このほかにも種類がありますが、蒸発させたい材料との相性もあるので様々な文献や取扱メーカーさんの材料表データを参考に選定する必要があります。また、容器の大きさも蒸着する量に応じて選定する必要があります。